約 511,713 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/574.html
183 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 00 18 00.01 ID CC/dlKZP0 [1/3] 「ほら、あの人…あの桐乃の…」 「そうそうお兄さんだよ、桐乃の」 京介「…何か指差してごにょごにょ言われてるよな…俺」 麻奈実「多分、私たちの中学校から来た桐乃ちゃんの先輩じゃないかなぁ?」 京介「あー…そういやあいつ雑誌に兄貴がいるって書いてるんだったな…」 麻奈実「同じ名字だし出身の中学校も同じだからわかるんだよ~」 京介「(ったく…高校でまであいつの名前聞かなきゃなんねぇのかよ…)」 「でもさぁ、何か期待はずれだよねー」 京介「………」 「桐乃のお兄さんなら超イケメンかと思ってたけど何か地味じゃない?」 「だってぇ、桐乃が雑誌には超かっこよくて超優しくて超素敵なお兄ちゃんなんて書いてるからぁ~」 「どんだけすごいお兄さんなのかと思っちゃった~」 「桐乃のお兄さんって感じじゃないよねーあははっ!」 麻奈実「きょ、きょ~ちゃん…?だいじょうぶ?」 京介「…心配すんな、こんなの慣れてらぁ。……ちっ」 京介「(桐乃のやろう…!勝手にハードル上げまくりやがって…!俺が何をしたよ!?何で勝手にがっかりされなきゃなんねーんだ!!)」 京介「(ブラコンキャラ作るのに俺を利用すんのも大概にしとけっつーの!!)」 高坂家リビング 京介「大体、一体どんな風に俺のこと書いてんだ?親父が欠かさず買ってる桐乃の載ってる雑誌を持ってきてはみたが…」 京介「………あぁ、これか。………楽しく、お買い物?クリスマスデート?……おい、どこの世界の高坂兄妹だよ。これ。 どこの世界の俺で、どこの世界の桐乃だこれ?特にこれなんだよ。あたしはおにいちゃんとすごく仲良しって誰だよお前!?」 185 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 00 20 01.40 ID CC/dlKZP0 [2/3] 桐乃「あんた何、妹の載ってる雑誌見て騒いでんの?キモ。シスコン」 京介「うおっ!!?お、お前いきなり現れるんじゃねぇよ!」 桐乃「はぁ!?見られたくなけりゃ部屋に引っ込んでなさいよ、意味わかんないんだけど」 京介「お前なぁ!ブラコンキャラつくんのは勝手だけど空想の兄貴をここに書くんじゃねぇよ!!」 桐乃「はぁ?関係ないじゃんあたしが何書こうが。」 京介「お前がここに美化200%の兄貴像なんか書くと現実の俺に負担がかかるんだよ!何で俺が期待はずれとか言われなきゃなんねーんだ!」 桐乃「はぁ…。何?あたしがここに書いてる姿とかけ離れてるって言われて傷ついたわけ?じゃあ、地味で平凡でうざくてシスコン変態兄ですって書けっての?」 京介「そもそもお前にブラコン設定みたいなもん自体無理があんだろうが!」 桐乃「………っ」 京介「な、何だよ?」 桐乃「キャラづけしたほうがウケがいいんだからしょーがないじゃん。だいたい、あんたそれだから駄目なのよ」 京介「…はぁ?」 桐乃「あたしがハードル上げてるって言うんなら、そこで考えるべきはあたしにハードル下げろって言うことじゃなくて、 期待はずれだって言われないくらい自分を磨くことでしょ?情けなくないわけ、あんた?」 京介「ぐっ…。」 桐乃「あたし、何か間違ったこと言ってる?わかったらもっと自分を磨く努力をしろっての。」 京介「……わかったよ、俺が悪かった。」 桐乃「え…な、何?何でそんな素直に認めるわけ?」 京介「お前に努力しろって言われたら何にも言い返せねぇよ、桐乃。」 桐乃「……あんた、週末あけときなさいよ。今週の。」 京介「週末?なんでだよ。」 桐乃「あんたの自分磨き、付き合ってやるってのよ。まずその地味なファッションからどうにかしないといけないし。」 京介「…おい、俺はそんなに金は…。」 桐乃「金かけるのだけがファッションだと思ってんの?安くでキメるのもあたしの腕の見せ所よ!感謝しなさい!」 京介「へいへい、頼もしいよ全く。」 桐乃「それと…嘘じゃないし。」 京介「はぁ?何が。」 桐乃「……だ、だから雑誌の!」 京介「……お前、ブラコンってキャラづくりじゃなかったのかよ…」 桐乃「なっ…!!この…!死んでよバカぁっ!!!」 京介「意味がわかんねぇよお前!!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1783.html
京介「ったく。 赤城の奴、今日は泊まれるだとか言っておいてドタキャンしやがって……」 京介「おかげ様で俺は飯抜きに加えてこんな時間にこっそり家に入らねえといけない。 鍵持ってて良かったよ、ほんと」 京介「……ただいまーっと」 一応、挨拶はしておかないとな。 礼儀として。 良く親父に躾けられたもんだぜ。 京介「……真っ暗。 ってことは皆寝てるか」 難関は階段。 軋んで音が出るからな。 俺は恐る恐る、一段一段、慎重に……だけども、なるべく早く上る。 上り終えさえすれば、部屋はすぐ目の前だ。 後は朝早くに起きて、今帰ってきましたよって顔をすれば完璧ってわけよ。 へへ、我ながらナイスアイデア。 ガチャリ。 ……やべ! 親父か? それともお袋か? 桐乃「……ふわぁあ」 京介「き、桐乃?」 桐乃「……ひっ!」 大声を出しそうになった桐乃の口をすばやく押さえる。 さっきまで寝てたような顔をしているし、トイレにでも行くところだったのだろうか。 京介「……声出すな! 分かったら頷け。 手、離すから」 桐乃は目に少し涙を溜めつつも、一度頷く。 京介「……よし。 離すぞ」 桐乃「……なんで居るの、あんた」 桐乃もなんとなく状況を把握したのか、限りなく小さい声で俺にそう尋ねる。 京介「……いや、実はだな」 こうなってしまった経緯を説明。 途中、桐乃はそれを黙って聞いていた。 桐乃「なるほどね。 で、話は終わり? あんたに構ってる暇無いんだケド」 別に俺も構って欲しくは無いっての。 ……いや、ちょっと待て。 さっきまで暗闇に目が慣れてなくて見えなかったが、こいつの着ている服って。 京介「……それ、俺の寝巻きじゃね?」 俺が言うと、桐乃はびくっと体を反応させる。 あれ……。 マジで図星だった……とか? 桐乃「そ、そんなワケ無いでしょ。 意味わかんないこと言わないで」 京介「でもお前そんなの持って無いだろ」 桐乃「こ、これは……! これは、買ったの。 今日」 京介「その割にはくたびれてる感じがするが……」 桐乃「……それは! め、めちゃくちゃ動いたから。 チョー動いた」 京介「……寝巻きで?」 桐乃「……寝巻きで」 顔が明らかに引き攣ってる。 怪しさで表すと覆面を被った奴が銀行に入ってきたくらいの度合いで怪しい。 京介「やっぱりそれ、俺のだろ」 桐乃「……だ、だから違うっての! 大体、なんであたしがあんたの寝巻きを着ないといけないの? 頭おかしいんじゃない?」 知るかよ。 その理由が知りたいのは俺だってのに。 京介「……他に服が無かったとか?」 桐乃はその言葉を聞くと、ぱっと表情を変える。 まるで思いついたかの様な顔。 桐乃「そ、そう! 他に着る服が無かったの! だから嫌々……本当にキモいんだけど、気付いたときはお父さんもお母さんも寝てたし、それでたまたま……本当にたまたま、あんたのがあったから借りてたってだけだから」 さっきと言ってること違げえし! お前、頑なに着てないって言ってたじゃん! 京介「……分かった分かった。 とりあえずそれ、明日戻しとけよ。 俺もう寝るから」 桐乃「……そのまま返せって言ってんの!? あ、あんたどうせ……シスコンだから、あたしの匂いが付いたの嗅ぐつもりでしょ」 京介「んなことしねえよ……。 どんな発想だっての」 桐乃「あーキモいキモい。 シスコン」 京介「もうそれでいいや。 じゃあ洗ってからでも良いから、お袋に洗ってもらっといてくれ。 じゃあな」 俺は桐乃にそう告げ、部屋に入る。 借りてるなら借りてると最初からそう言えば良い物を。 俺だって、そんなことで一々怒ったりしないっつうのに。 終わり ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/741.html
278 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 21 40 37.84 ID VOOU6kaJ0 [2/3] 【SS】月夜と祭りとすれ違い 「今週末、お祭りに行くから」 突然うちの妹様がそう切り出したのは、新学期が始まってから半月ぐらいたった時だった。 つまり、黒猫を捕獲しに温泉に行ってから、半月後ということになる。 あれから一週間くらいはお互いにお互いを意識しながら、それでも桐乃が素直になったからか、それなりに仲良くやってたと思う。 しかし一週間くらい前からか、桐乃が少しずつ俺を避け始めるようになった。 別に前みたいに無視されるわけじゃねーし、時にはゲームに誘われたりもするんだけどさ、なんか前に戻っちまったみたいで、あんまりしっくりこねぇんだよな。 あんなことがあったんだからもっと俺たちの関係に変化があってもいいはず―とは思うものの、 俺が桐乃のために何かした後もいっつもこんなんだったな、と納得するところもある。 やっぱりゲームと現実は違うって事かね。 でもまぁ、一番じゃないと嫌だと言われた俺としては、もっと桐乃にかまって欲しい―もとい仲良くなりたいわけで、 黒猫が最後に残していったゲームに誘ったり、 新しい携帯の待ち受け(黒猫にエロゲをやらせてにやにやしている姿)を見せたり、 桐乃仕様にデコった筆箱を見せたりしたわけよ。 でもその度に顔を真っ赤にして怒りやがって。 おまえが一番だって示してやってるのに、いったい何が不満なんだか。 先週末に誘ったデートも忙しいからって断られたしな。 今日も桐乃がかまってくれないので、仕方なく一人寂しく受験勉強してたんだが、そんな折に突然俺の部屋に入ってくるなり桐乃が行ったのが上の言葉だ。 「そっか。あやせたちと一緒に行くのか?気をつけろよ」 別に友達と一緒にお祭りに行くのに俺に報告なんか必要ないだろう。 それにしてもお祭りか。ラブリーマイエンジェルあやせたんの浴衣姿を見るために、桐乃の保護者役としてついていくのもいいな。 俺の返事に、桐乃は顔をしかめ、腕を組む。 「は?あんた何言ってんの?あたしとあんたの二人で行くの」 ・・・・・・俺と桐乃の二人で? 「なんで俺たち二人でなんだよ。お祭りに行くならあやせとかと一緒に行ったほうが楽しいんじゃないか?」 そういう場所はあやせたちと一緒に言ったほうが楽しいって前に言ってたしな。 「いいじゃん別に、たまにはあんたと二人でもさ。あと、あんたに拒否権はないから」 最近ちょっとは素直になってきたと思ってたんだが、相変わらずうちの妹様は一方的だな。 まぁ、俺としてもおまえと二人でどっかに行きたいと思ってたし、まったく問題はないんだけどな。 「そうだな・・・・・・」 あとは俺の都合か。最近桐乃や黒猫にかまっていた時間が長いので、勉強時間が短くなっている。 黒猫にも言ったとおり勉強をおろそかにはしていないので、今の調子でもまず問題はないはずだが、週末がつぶれるとなると前倒しで勉強しておくべきか。 「―やっぱり、駄目?」 俺の答えが遅かったからか、桐乃が節目がちにそう言った。 「黒猫とは一緒に行けても、あたしとはイヤなの・・・・・・?」 少しだけ苦しそうに、桐乃はそう続けた。 なんでここで黒猫が出てくるのかは分からないが、俺が考え込んでしまったせいで勘違いさせてしまったようだ。 「そんなことねぇよ。おまえと一緒にお祭りに行けるなんて、今から楽しみだぜ」 そう言い、桐乃の頭に手を乗せ、ゆっくりとなでる。 そう、桐乃と祭りに行けるなら、今から週末まで連日徹夜で勉強したとしても苦ではないぜ。 「妹と二人でお祭り行くのがそんなに楽しみだなんて、あんた本当にシスコンだよね」 先ほどの表情は何処へやら、俺の手を払うと桐乃はそう言う。 ・・・・・・まあ、いつもの事なんだけどね。 「でも、あたしと一緒にお祭りに行けるのが、そんなに楽しみなんだ」 ふーん、と意味ありげにこちらを見る桐乃。 「なんだよ、おまえは楽しみじゃないのか?」 その言葉に桐乃は一瞬だけ口をつぐみ、視線を逸らす。 「そりゃ楽しみなんだけど・・・・・・ちょっと、ね」 言いたいことがあれば言えばいいだろうに、言いよどむなんてこいつらしくない。 まさか、本当は行きたくないんじゃないだろうな。 「―とにかく、あんたはあたしと一緒にお祭りに行くの!わかった!?」 こちらを睨みつけると、桐乃はいつものように居丈高に宣言した。 まったく、なんなんだろうね。 「へいへい。ところで、一体何処のお祭りに行くんだ?」 桐乃が再び目を逸らす。こいつ、何を隠してやがるんだ? こいつが変に隠し事をするときには、大抵ろくなことにならないんだが・・・・・・ 「―ここ」 桐乃は少しだけ言いづらそうに口を開くと、プリントアウトしたらしい、とある広報を俺の前に差し出した。 「月見―か」 月見の祭り。季節を感じさせるその言葉は、俺に黒猫との最後のデートを想起させた。 そして週末、俺は桐乃と一緒にとある神社に来ていた。 日が落ちきる前に来たのだが、すでに神社の近くは祭りに参加している人たちの喧騒や出店でにぎわっていた。 道の脇に並ぶ出店を見ると、あの時のことを思い出す。一月も経っていないのに、ずいぶんと懐かしい。 あの日―花火大会の夜に俺は黒猫に振られた。 結局黒猫の思惑もよくわからなかったし、こういう雰囲気にはあんまり良い思い出が― ―いや、そうでもないか。 確かに悲しい思いはしたけれど、あの日黒猫と一緒に出店を見て回った思い出は、あの楽しかった思い出は決して間違いなんかじゃないんだから。 あの時思った、一生の思い出となるだろうって考えは、きっと正しい。楽しい思い出と、辛い思い出を織り交ぜて、ずっと心の中に残るだろう。 「・・・・・・」 出店が始まる場所で立ち止まった俺を、隣で桐乃がじっと見つめている。 「どうした?」 俺と目が合うと、桐乃はさっと目を逸らした。 「・・・・・・別に」 何なんだ一体。ここに来るまでもやけにはしゃいでるかと思えば、考え事をしている間にいつの間にか静かになっていてこちらを見ていたりする。 ―まったく、おまえが変なのはいつものことだけどさ、せっかく今から祭りを楽しもうってのにその態度はないだろう。 まぁ幸いにも、今だけ使える桐乃を元気付けられる言葉を、俺は知っている。このままなのも気分が悪いし、仕方ないからその言葉を使おうか。 「なぁ桐乃」 「なによ」 桐乃がこちらを向く。 俺は一度大きく息を吸い、桐乃の目を見て、言った。 「今日のおまえ―綺麗だな。その浴衣、おまえによく似合ってる。まるで天女だぜ」 家を出てからずっと言わなかった言葉。・・・・・・別に、桐乃に見惚れて言葉が出ないうちに言いそびれたわけじゃないぞ? 俺の言葉に反応して、桐乃の顔が赤く染まっていく。 あれ?予想以上の反応だな。 「ふんっ!」 突然桐乃が俺の向こう脛を蹴り上げた。 「っ痛!桐乃、おまえ何するんだ!」 涙目になりながら脛をこする。知っているか桐乃、そこを攻撃されると武蔵坊弁慶ですら泣くんだぞ。 「うっさいっ!デリカシーのないあんたが悪いの!」 ・・・・・・?なんで綺麗だって褒めたのにデリカシーがないってことになるんだ? 「でもまぁ、その、褒めてくれたことは嬉しいし?だから許してあげる」 許すのなら蹴らないでください妹様。 「あ、あと」 桐乃が腰を下げ、しゃがみ込んだ俺の顔を覗き込む。 桐乃は一度大きく息を吸い、俺の目を見て、言った。 「お父さんには敵わないけど、京介の着流しも似合ってるよ」 顔に血液が集まるのがわかる。 な、なるほど。兄妹に服装を褒められるのってこんなに恥ずかしくて嬉しいもんなんだな。 「ほら、行くよ!」 桐乃は脛をさする俺の手をつかむと腰を上げる。 桐乃の手から熱が伝わり、足の痛みを忘れ立ち上がる。 「あ、ああ」 桐乃は俺の手を引き駆け出し、 ―すぐにその手を離した。 「―え?」 少し先を駆け出す桐乃を前に、俺は手を伸ばしたまま一歩を踏み出せない。 「なにやってんの?」 桐乃が振り向き問う。 「あ、あぁ。今行くよ」 俺は答え、桐乃のほうへと歩いていく。桐乃はうきうきとした調子で俺が近づくのを待つ。 ―よくわからないが、桐乃の機嫌は直ったらしい。 ただ何故か少しだけ寂寥感を覚え、俺はまだ熱の残る手を握った。 花火大会よりも小さな規模ながら、この祭りも十分に賑わっていた。 いつぞやのデートとは違い、桐乃は秋葉原でそうするように、俺をあちこちへと引っ張りまわした。 桐乃にメルルがプリントされた袋に入ったわた飴を見つけてはしゃいだたり、 ヨーヨー釣りで桐乃と競ったり、射的がまったく当たらず怒った桐乃に銃を向けられたり、 型抜きでメルルに挑戦するも完成直前に真っ二つに割ってしまった桐乃を慰めたり、 ゲームが当たるくじで桐乃が見事にシスシス(全年齢版・初回特典付き・留学中に発売されたため今じゃ手に入らないと桐乃を悲しませた一品)を当てたりした。 もちろん全部俺のおごりでな! ここに来るまではもしかしてこれってデートなんじゃないかとも思ったが、この様子だとただの兄妹でのお出かけのつもりらしい。 まぁあの時のデートは俺の気を引くためにでっち上げたものらしいし、桐乃を一番に選んだ今ならそんな雰囲気は不必要だってことだろう。 ―でもなんでだろうな。桐乃とのお出かけと、あの日の黒猫とのデートを重ねてしまうのは。 射的が当たらず怒っている桐乃を見て黒猫は器用だったなとか、 くじで大当たりを当てた桐乃を見て黒猫ははずれしか引けなかったなとか、 黒猫は俺に奢らせるのを渋っていたなとか、つい考えてしまう。 「・・・・・・」 少し前を歩いていたはずの桐乃が、いつの間にか隣に立ってこちらをじっと見ていた。 まずいな。黒猫のことについて考えていたのがばれたか? そうなると何時もの様に二人でいるときに他の女のことを考えるなという罵声が― 「はい」 身構えた俺に、桐乃が爪楊枝に突き刺したたこ焼きを差し出した。 「美味しいから一つあげる」 あげるって、それさっき俺が買ったやつなんだけどね。 突き出されたたこ焼きの上ではうねうねとかつお節が踊っている。 「こ、このまま食べるのか?」 確かに美味しそうなんだが、もしかしてそのまま食べろと?せめてその爪楊枝をこちらに渡してくれ。 「あ、そうか」 桐乃はたこ焼きを手元に引き戻し、 ふーふーと息をかけて冷まし始めた。 「はい、これでいい?あんた熱いの苦手だもんね」 事態が悪化した!? 「あ、あぁ」 とは言え、せっかくの桐乃の好意を無碍にはできない。それにせっかく桐乃から歩み寄ってくれているんだ。ここで受けなきゃ男が廃るぜ! 俺は覚悟を決めると口を大きく開き、差し出されたたこ焼きにかぶりついた。 「あふぁっ!」 桐乃に冷ましてもらったがそれでもたこ焼きは熱く、口の中が容赦なく蹂躙される。 「ちょっと!一口で食べなさいよ!」 涙目で桐乃のほうを向くと、半分になったたこ焼きが爪楊枝から落ちそうになっている。 そんな事言ったってその大きさの熱いたこ焼きは一口じゃ食えねぇって! 落ちる前に次の一口を食べようと、口に残ったたこ焼きを咀嚼する。 だが口の中が空く前にたこ焼きは滑って行き、 パクっと桐乃が残ったたこ焼きを食べた。 お互いにお互いを見ながらたこ焼きを味わっていく。 しばらくして口内のたこ焼きが無くなる。口内を火傷したからだろうか、顔が熱い。 「なぁ、桐乃」 「なに?」 「たこ焼き美味かった」 「そう。じゃあさ、今の半分しか食べられなかったし、あと一口食べる?」 俺は黙って頷いた。 出店を一通り見終わったころには、すっかり日は落ち満月が夜空に輝いていた。 「さて、月も昇ったしどこかで団子でも食べながら月を眺めるか」 「そうだね」 俺は先ほどの出店で買った団子やらくじで当たった景品やらを手に、月見にいい場所がないか探す。 少し戻ったところから階段を上り境内に上がれば眺めはいいんだろうが、生憎出店と人で落ち着いて月を見れそうな場所はなかった。 さて、どうしたもんかな。そう考えていると、服の袖を引かれた。 「こっち」 桐乃は一言だけそういうと、袖から手を離し俺の返事も待たずに出店から離れるように歩き始めた。 俺は桐乃の背中を見失わないように追いかける。 しばらく無言のままくらい町の中を歩いていると、桐乃が横道にそれる。 桐乃の後をついていくと、どうやらそこは丘の上に建つ神社の裏側へと続く道のようだった。 ここに来るのは初めてだと思ったのに、桐乃のやつはどうしてこんな道のことを知ってやがるんだ? 前に親父やお袋と一緒に来たことあったっけな? それとも、あまり考えたくもないが、誰か俺の知らない奴に誘われたりしたのかな― そんなことを考えながら、お互いに無言のまま階段を上がってく。 桐乃は先ほどまであんなにはしゃいでいたのが嘘のように静かだ。 こちらも見ずに一人さっさと上がっていく桐乃を見ていると寂しくなったので、早足で桐乃のすぐ隣に並ぶ。 桐乃は隣に来た俺を一瞥したが、一歩横によけるとそのまま前を向いて早足で階段を上がっていく。 ちぇ。少しくらい仲良くしてくれてもいいだろうに。 階段を上がると、そこは開けた場所となっていた。それほど広い場所ではないがベンチも置いてあるし、町と空を一望できる。 幸いな事に先客もいないようだった。 ただ灯りもないため、頼りにできるのは満月の光だけだ。 俺はベンチに近づき懐からタオルを取り出すと軽く払い、その後裏にしてベンチに置くとその隣に座った。 桐乃も無言のまま俺の隣に座る。 俺はひざの上に団子のパックを載せるとフタを開け、中から一本桐乃に手渡す。 桐乃が団子に口をつけるのを見た後、自分の分を取り出し食べ始める。 お互いに月も見ずに、お互いのことをちらちらと確認しながら団子を食べていく。 五分くらい経っただろうか。先に口を口を開いたのは桐乃だった。 「ねぇ、私とのデートどうだった?」 食べ終わり咥えていた団子の串が口から落ちる。 「え?これってデートだったの?」 「はぁ!?あんた何だと思ってたの!?」 桐乃が俺に詰め寄る。 「えっと、ほら、兄妹でのお出かけというか、せっかく仲良しに戻ったんだし二人でどっかに行きたかったのかなーって」 「それをデートって言うんじゃない」 「でもほら、前にデートしたときとぜんぜん違うじゃねぇか。前はこっちにリードさせようとしてたのに今回は引っ張りまわすし、 一緒に秋葉に買い物に行くときのノリかと思ったんだよ」 「うっ。でもそれは、その・・・・・・」 俺の反論に桐乃は言葉に詰まる。 「俺だってな、ここに来るまでおまえとデートできるんだって楽しみにしてたんだぜ? でもおまえは何時も通りだし、時々じっとこちらを見てるし、俺一人で舞い上がってたんじゃないかって寂しかったけど、 それでもおまえと一緒に遊べるんだし、おまえが楽しめるように頑張ったんだよ。 それにな、ただのお出かけなのに俺がデートだと思ってたらおまえ嫌がるだろう?」 桐乃は下を向いて「別に・・・・・・嫌じゃ・・・・・・」とかつぶやくがよく聞き取れない。 しばらくして桐乃は面を上げると 「別にあたしとデートするのは嫌じゃないんだよね?」 「当たり前だろ?この間だってデートしようぜって誘ったじゃねぇか」 「あんたの場合どこまで本気なのかわかんないんだもん。どこ行くつもりなのか聞いても考えてないって言ってたし」 失礼な。俺は何時だって真剣だぜ。ただ最近は思いついたら即実行が染み付いて考えが足りてないかもしれないがな! 「じゃあさ、デートだって知ってたらさ、態度変わったりした?」 今回がデートだと知ってたら? そうだな、桐乃の格好を誉めたり、欲しいものを買ってやったり、楽しそうに遊んでいる桐乃を近くで眺めたり、たこ焼きを半分こしてみたり・・・・・・ あれ?何も変わってないんじゃね? 「変わらん気がするな」 「―そう」 桐乃は少しだけ目を細めてそう言った。 ・・・・・・なんでそんな表情するのかわかんねーけどさ、俺はそんな顔は見たくねーんだよ。 「でもな、桐乃」 「なに?」 「デートだったと知ってたとしてもさ、たぶん今とおんなじで ―すっごく楽しかったと思うぜ」 黒猫とデートしたときと同じで、今回のデートも俺の心にきっと一生残り続けるだろう。 「―そう」 納得してくれたかはわからないが、とりあえず機嫌は直ったみたいだな。 「じゃあ次の質問」 「まだあんのかよ!」 「あたりまえじゃん。あんたには色々と聞きたいことがあんの」 マジかよ。あと何回か桐乃のご機嫌を伺わないといけないわけ? くそっ!次は間違えねーぞ!冷静に答えれば桐乃が満足する答えが出せるはずだ。今までだって何とかうまくやってこれたしな! 「あんたさ、今日のデートで何回黒猫のこと考えた?」 「すげぇ答えづらいこと聞いてくるな!オイ!」 というかやっぱり気付いていたんですね! 「気付かない筈ないじゃん。あんたの考えてることなんて顔を見ればすぐにわかるっつーの」 みんな俺の心を見透かしたような事言うけどさ、俺ってそんなに分かり易いの? 「まあ答えは聞かなくていいや。なんとなくわかるし」 「じゃあそもそも質問しないでくれますか桐乃様!」 俺の純情ハートをもてあそびやがって! 「あんたさ、あんなにきっぱりと振られたし自分でもあきらめたのに、何?まだ未練たらたらなの?」 あきらめる原因となった妹様に言われたくねーよ。 「・・・・・・未練がないって言ったら嘘になるけどさ、でもそれが原因じゃねぇんだよ。 あんな終わり方になっちまったけどさ、黒猫と一緒にいたときは本当にすっごい楽しかったんだよ。 俺が好きな人が俺のことを好きでいてくれて、俺のことをすっごい好きでいてくれる人がさ、俺と一緒にいたがってくれて、俺に喜んでもらおうとしてくれてさ。 俺にとってそんなのは初めてだったんだよ。忘れられるもんじゃねぇし、ふとしたことで思い出しちまうんだよ」 正直な気持ちだった。 あの夏の日々はすべてが初めてで、すべてが刺激的だった。忘れられるはずもないし。忘れたくもない。 これからも、今ほどではないにせよ、ふとしたことであの日々のことを思い出すんだろう。 「・・・・・・じゃあさ、地味子とはどうなの?あいつだってあんたの事好きなんでしょ?」 「地味子っていうな。何度も言ってるだろ?真奈美は彼女じゃねぇって。 真奈美は何て言うか家族って言うか、一緒にいると楽しいって言うより落ち着くんだよ」 「・・・・・・家族だと、落ち着くだけ、か・・・・・・」 再び桐乃はぼそぼそと喋る。 あれ?また選択肢間違えた? 「でもあれだ!黒猫とのデートのときも結構おまえのこと考えちまってたぜ?黒猫は何も言わなかったけどな」 慌ててフォローの台詞を言う。でもなんか言わなくてもいいことを言った気がする。 「はぁ?あんた彼女とのデートの最中に妹のこと考えてたの!?キモ!最低!」 桐乃が顔を赤くして俺に迫る。ううっ確かに悪いことしちまってたな。 「好きな人と一緒のときに妹のこと考えるだなんて、あんたシスコンこじらせすぎ。 まさか桐乃ならこうなのに~とか言ってないでしょうね?」 言いました。ごめんなさい。 「―まぁ、でも、そっか・・・・・・ うん。許してあげる」 「いいの?」 「あいつだってあんたの考えてることなんかわかるだろうし、それで何も言わなかったんならそれについてあたしも何もいえないじゃん? それにあいつが不問にしたんだったらあたしも不問にする」 そりゃ良かった。それにしても、どうして黒猫は何も言わなかったんだろうな。 「次の質問」 まだまだ続くのか・・・・・・こうなりゃ覚悟を決めるぜ! 「どうして黒猫のこと本名で呼んであげなかったの?」 「―え?」 突然話題が変わっただろうか?俺の頭は今の言葉をなかなか理解できなかった。 「黒猫から聞いたんだけどさ、あいつがあんたの名前を呼んでも、あんたはあいつの本名を呼ばなかったらしいじゃん」 「それは―」 何故だろうか。黒猫とデートする前日なんか、あいつと名前を呼び合う姿を妄想していたっていうのに。 あいつに名前を呼ばれて、くすぐったかったけど嬉しかったっていうのに。 ―そういえば、ちょっと前にもあったな。こんな自分でも自分の心が分からなかった時が― 「あのさ、おまえには言ってなかったけどさ。俺黒猫に告白されたときさ、すぐに答えられなかったんだよ。 何でだと思う?」 「ヘタレたからじゃん?」 間髪いれずに答えるな!確かに俺はヘタレだけどさ! 「そうじゃなくてさ、俺は答える気があったんだけど体が動かなかったんだよ。 その理由が後になって分ったんだ。おまえに彼氏を作るなって言っておいて、自分が作るわけにはいかねぇって思ってたんだなって」 「あ―」 「たぶん、それと同じなんだよ。 黒猫ってさ、何かある度に呼び方変えてくるじゃん。それなのに彼氏になっても『先輩』のままで寂しかったんだ。 でもさ、実際呼び方が変わって本当に彼氏彼女になったんだなって思ったらさ、なんか名前を呼べなかった」 「・・・・・・」 「俺が名前を呼んじまったら、俺たち全員の間柄が変わっちまってさ、せっかく桐乃とも仲良くなってきたっていうのに、 また疎遠になっちまうんじゃないかと思ったら、怖くなった」 あの時は無意識だった。でも、きっとそういうことなんだろう。 「―それってさ、黒猫と彼氏彼女と認め合うより、あたしと離れたくなかったって事?」 「うっ!た、確かにそういうことになんのかな?」 「キモ!本当にあんた救いがたいくらいのシスコンよね」 そう言われると滅茶苦茶恥ずかしくなってきやがった! 今の俺の顔は真っ赤だろう。だが、満月の光しか明かりがないからバレないだろう、たぶん。 隣で笑っているであろう桐乃の顔色は伺えないし、さっきみたいに近づかれない限りは平気なはずだ。 「本当に黒猫が可哀想。あんたを振りたくなるのも分るわね」 土下座でも何でもするからもう追撃しないでください! 「うん。分った。そういうことか」 これ以上俺のシスコンぶりを理解しないでください!シスコンだってのは認めるけどさ、おまえにからかわれると恥ずかしいんだつーの! 「それじゃあ、最後の質問」 ふう、ようやく最後か。今までより答えづらい質問だろうから気を引き締めないとな。 「黒猫と別れたのって、何回目のデート?」 「はい?」 予想外に答えやすい質問に拍子抜けする。 「何回目のデートでフラれたかって聞いてんの!」 「あ、あぁ」 黒猫との逢瀬のことを一つ一つ思い出しながら、指折り数を数えていく。 「―回目だな」 「ふ~ん。そう」 なんでデートの回数なんか気にするんだ? 「そっか、だからか」 え?今ので何かわかったの? 「何がわかったんだ?」 んとね、と言い、桐乃は町のほうを見る。 「なんであんたがあの時フラれたか」 「はい?」 何で今のでわかるの? 「え?なんで?何で俺あの時フラれたの?」 「教えてあげない」 「いいじゃん教えてくれても!俺なんかまずいことしたの?」 「たぶんまずいことしかしてないけど」 俺ってそこまでまるでダメな雄、略してマダオ!? 「教えてくれないといつか彼女ができたときに同じ理由で振られるだろう!」 「フラれた方がいいから教えない」 桐乃はそっぽを向く。 そうだった。こいつは俺に彼女ができて欲しくないんだった。 「それに、あの時にフラれた直接的な理由はそれじゃないし」 え、どういうこと? 「理由はたぶんあたしだから―気にしなくていいよ」 「どういうことだ?」 わけがわからないよ。 「はい、この話はおしまい!」 桐乃はそう言うと勢いよく立ち上がった。 「それじゃあ帰ろうか!」 え?帰るの?色々と謎を振りまくだけ振りまいておしまいって、そりゃないだろう。 「ちょ、ちょっと待て!」 踵を返そうとする桐乃の腕を掴み静止させる。 「なに?」 「おまえからの質問に答えたんだ。俺からもひとつだけ訊かせろ」 「―なに?」 祭りに来る前からずっと気になっていたこと。それは― 「なんで俺を誘ったんだ?」 「そ、それは―」 「おまえ、最近ずっと俺を避けてただろ? そっちの理由も気になるけどさ、避けてたのに俺を誘うって事はなんか話したいこととか、して欲しいことがあったんじゃないのか?」 「そ、それは今訊いたじゃん」 桐乃は俺の腕を振り払うと何歩か後ろに下がる。 「それだけならわざわざここまで来る必要なかっただろ? それにさ、今無理矢理切り上げようとしたじゃねぇか」 普段のこいつは勝気で何にでも突っかかっていくが、理由はわからないが偶に弱腰になって一歩引いてしまうことがある。 ―こいつがアメリカに行く前の夜なんてのはその例だ。 あの時桐乃が一歩引いたのを気にしなかったから、俺は『選択肢を間違えた』。 正しい選択肢を選ぶべきだったのかは、今となってはわからない。 でも、絶対に後で後悔はしたくない。 「俺はおまえみたいになんでもできるわけじゃねぇし、頼りにならないかもしれない。 でも俺はさ、おまえが大事だからおまえの力になりてーんだよ」 暗くても、少し離れたところで桐乃が小刻みに震えているのがわかる。 やばい、怒らせちまったか? 「―ならないはずないじゃない」 「なんだ?」 「―なんでもない!」 怒鳴りやがった。やっぱり怒っていやがるな。 心を落ち着けるためか、桐乃は一度大きく深呼吸する。 「あんた勘違いしてるみたいだけどさ、本当に用事は終わっちゃってるの。意味があったかはわからないけどさ。 訊きたいことも聞けたし、あたしはもう満足しちゃってるの」 「じゃあさ、おまえ―なんでそんな表情してるんだよ」 「え?」 「おまえ、今にも泣き出しそうじゃねぇか。そんな顔されたら絶対に引き下がるわけにはいかねぇじゃねーか」 桐乃は一歩下がると手で顔を触った。 「嘘。この暗さだと、そこから見えるはずないし」 「嘘じゃねーよ。俺は桐乃に泣いて欲しくないから、泣きそうだったらわかるんだよ」 俺はこのデートが楽しかった。きっと桐乃にとってもそうだろう。だからそんな思い出の最後を、悲しいものになんかしたくない。 ―そう、あの時のような。 「俺じゃ力になれないかもしれないけどさ、言うだけ言ってみろよ」 「うっさい!本当に何もないの!ここで帰んないといけないの!」 帰らないといけない? 「帰らなくちゃいけないって、それどういう意味だよ」 「あ・・・・・・」 口を滑らせてしまったんだろう、桐乃が両手で自分の口をふさいだのがわかる。 「やっぱりなんか理由があるんじゃねーか。そりゃ俺には絶対に言いたくないことかもしれないけどさ、それならせめて安心できるようなことを言ってくれよ」 その言葉が桐乃の琴線に触れたのか、桐乃の態度ががらりと変わる。 「―あたしはあんたとデートしたかっただけなの!」 暗くても肩を怒らせているのが分る。 「あんたさぁ、ずっと黒猫にフラれたの気にしてたじゃん。だからそれを忘れさせてあげようと思ったの!」 黒猫に振られたのを気にしていた? 「そんなことねーって!もう気にしてねーし桐乃を大事にするって決めたから、おまえともっと仲良くしようとしてるんじゃねーか!」 ちっと桐乃が舌打ちするのが聞こえた。 「気にしてないはずないじゃん。じゃあどうしてあんたあたしをあのゲームに誘ったの?」 あのゲーム?黒猫が最後に作ったシューティングゲームのことか? 「待ち受けにも黒猫が写ってたし、筆箱のデコにも黒猫のシールがワンポイントとして貼ってあったじゃん! あんたは気づいてなかったのかも知んないけどさ、そういう未練がましいのマジムカつくんだっての!」 桐乃に言われてやっと気がついた。 確かに俺は無意識に黒猫の影を追い続けていたのかもしれない。 そうだよな・・・・・・おまえを一番に選んだってのに、振られた相手に未練を持ってたりしたら、そりゃいい気もしないよな。 「それに仲良くしようとしてる?本当にそれだけ?もしかしてあんたさぁ、 あたしを黒猫―彼女の代わりに見ようとしてない?」 「え?」 妹を彼女の代わり? 「前にあたしがいなくなって寂しくて、黒猫に代わりにするなって言われたらしいけどさ、それと同じじゃないの?」 「あ―」 前に桐乃が留学してしまったとき、俺はその寂しさを埋めるために黒猫にかまった。 もちろんそれだけじゃなかったが、それは決して否定は出来ない。 「だからデートでもデートじゃなくても同じだったんじゃないの?あたしとデートしたかったんじゃないの?」 「それは違う!」 そこだけは否定しなくちゃいけない。 「確かに黒猫と別れて寂しいって気持ちがあったのは間違いないし、黒猫にかまっていた代わりにおまえにかまおうとしていたんじゃないかって言われれば否定できない。 でもな、おまえはおまえだよ。それとは関係なく今日おまえと一緒だったのは楽しかったし、デートとかデートじゃないとか関係なくおまえといるのは嬉しいんだ」 俺の一番でいたいと言った桐乃を俺は一番に選んだ。だから俺はもっと桐乃仲良く良くなりたい。 それだけは決して間違いなんかじゃない。 「俺は本心からおまえと仲良くなりてぇんだよ。俺はまだ桐乃のことが嫌いだし、桐乃も俺のことが嫌いなんだろ? だから仲良くなってさ、桐乃にちょっとは好きになって欲しいし、桐乃のことをもっと好きになりてーんだよ」 「・・・・・・」 桐乃からの言葉はない。少しくらいは俺の気持ちが伝わったんだろうか。 二人とも無言のまま時間が過ぎていく。 先に口を開いたのはまたしても桐乃だった。 「あたしさ、兄貴の一番でいたいの」 こちらを見ずに、俺の足元の方を見ながら桐乃はつぶやいた。 「兄貴に一番に考えて欲しいの。あたしといるときは他の女のことを考えてほしくないの。 でもあんたは黒猫のことを忘れられないみたいだからさ、せめて上書きしてやろうって思ったの」 「それが、あたしがここにあんたを誘った理由」 「・・・・・・」 そうか。だからお祭りなのか。 確かにおれはこのお祭りで何度も黒猫のことを考えた。そしてこれからは多分、一緒に桐乃のことを思い出すようになるんだろう。 俺は桐乃に歩み寄るとその頭をなでてやる。 「そうだな。俺はたぶん黒猫のことを忘れられない」 手の下で、桐乃の体が固まる。 「でもな、これからは浴衣を見たらおまえの姿だって思い出すし、射撃をしたらおまえの下手な腕前を思い出す。 たこ焼きを食うたびにおまえの顔が頭をちらつくし、月を見たら今のことを考えちまう」 桐乃の体から力が抜けるのがわかる。 「俺にとって桐乃が一番だからさ、きっと黒猫よりもお前のことを思い出す」 「―そっか」 桐乃はなでられるままとなる。 「ねぇ兄貴」 「なんだ?」 「あたしはね、ここであんたと別れて帰らなくちゃいけなかったの」 「だからなんでだよ」 「教えてあげない」 「言わないならそれでもいいけどさ」 どうせ俺じゃ理解できない理由なんだろうさ。 「それに、もう我慢できないし」 我慢?いったい何を言っているんだ? 「だからさ、 ごめん、黒猫。あたしあんたより1ページだけ先に行くから」 桐乃はそうつぶやくと、俺の手を払い顔を上げ、 俺の首に手を回した。 「桐乃っ!?」 一気に顔が高潮するのがわかる。 俺の視線の先では、桐乃が俺と同じく顔を朱に染めている。 「京介には黒猫のことばっか考える呪いがかかっているみたいだからさ、 あたしが―解呪してあげる」 桐乃の顔が近づいてくる。 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい! これ以上近づかれると、今度はお前のことしか考えられなくなっちまうじゃねーか! さらに桐乃の顔が近づく。 桐乃の兄でも見とれてしまうような整った顔は現在目が瞑られており、俺も何故か目を瞑ってしまう。 そして― 満月の明かりの下、二つの影が重なる。 十秒か二十秒か、永久にも等しい時間が過ぎたあと、桐乃が離れる。 顔が熱い。思考がまとまらない。 「それじゃあ帰ろうか!」 くるりと桐乃は振り返ると、階段を駆け下りようとする。 「ちょ、ちょっと待て!」 俺は無意識のうちに桐乃の腕を掴み静止させる。 「なに?」 「まだ全然月を見てねぇじゃねーか。 少しぐらいさ、ゆっくりしていこうぜ」 ベンチに座りながら、今度こそ二人で中秋を照らす満月を眺める。 秋の始まりだと言うのに、体は熱く動悸は激しい。 でも何故か、心はしっとりと休まっている。 左肩に重みと暖かさを感じたが、そちらを見ずに月を眺める。 形容しがたい心の動きに突き動かされ、俺は桐乃の頭に手を置くと、ゆっくりと撫で始めた。 手を止めることなく、心の赴くままに髪を撫で付ける。 桐乃も俺のほうを見ずに、月を眺めているようだった。 しばらくして、俺は気になっていた事を尋ねた。 「なあ桐乃」 「なに?」 「おまえさ、手を払わないのか?」 「・・・・・・いい」 「なんでだよ」 「満月しか灯りがないからさ、別にいい」 「・・・・・・?」 よく分からんが、別に嫌いってわけじゃなかったんだな。 「あたしからもさ、ひとつ質問」 「なんだ?」 「あんたにも本物の彼女が出来たけどさ、やっぱり今でも妹も彼女も変わんないって思ってる?」 「・・・・・・そうだな、やっぱり『妹』も『彼女』もたいして変わんねぇよ」 「・・・・・・そっか」 「ああ。『彼女』と一緒にいると楽しいし、何考えてるか分かんねぇし、放っておきたくないし― やっぱり『妹』も『彼女』もたいして変わらねぇな」 「―なんだ、そうだったんだ」 「・・・・・・?」 俺の返事に何を納得したのか、肩への重みが増した。 「えへへ」 桐乃が嬉しそうに笑う。 ―まあ、喜んでくれるのなら何よりだ。 ずっと月を見ていると、ふと『誰か』の言葉を思い出した。 西洋では、満月と言うのは人の心を狂わせるものらしい。 今日ここでのやり取りは、もしかしたら満月のせいなのかもしれないな。 「ねぇ京介」 「なんだ、桐乃」 だからきっと 「あたし、京介のことが―」 「なぁ桐乃、今夜は―」 桐乃の言葉に割り込んだ俺が 『月が綺麗ですね』 こんなことを言ってしまったのは、月が俺を狂わせてしまったからだろう。 一拍の後、俺の言葉を聞いた桐乃は 「はぁ?」 頭の上に乗っていた俺の手を容赦なく払うと、俺に詰め寄った。 「あんたさ、人の言葉遮っておきながらもっとマシなこと言えないの? せめて月よりもおまえが綺麗だとか、 かぐや姫よりおまえのほうが素敵だとか!」 桐乃さん近づかないで下さい。顔を覗き込まないで下さい! 俺は桐乃から逃げるように顔をそらすと、勢いよく立ち上がり、置いておいた荷物を手に取った。 「うるせぇ! ほら、月も見たしもう帰るぞ!」 桐乃に手をつかまれる前に、俺はダッシュで階段へと向かった。 「ちょっと!待ちなさいよ!」 後ろから桐乃の声が聞こえたが、俺は無視して階段を下りていく。 今のこんな顔をおまえに見せられるわけねーだろうが! こうして、俺たちらしくない夜の祭りは終わった。 このやり取りで少しは桐乃のことが分かるようになった気がするし、桐乃とも仲良くなれたと思う。 ただそれと同じくらい、俺たちは分かってほしいことを分かってもらえず、伝えたいことを伝えられなかったんじゃないかって感じている。 まあそれも仕方がないだろう。俺たちはいつだって違う立場にいるし、違うものを見ている。 俺たちが互いを見るようになったのなんて一年半前からだし、兄妹のように接することが出来るようになったのはそれよりもずっと後だ。 前にも思ったはずだ。俺たちはまだまだ子供だし、分かり合うにはまだまだ時間が足りないってな。 間違いを繰り返しながら、それでも必死になってお互いを知る努力と、お互いを知ってもらう努力を続けていく。 もしかしたら、どこまで行っても平行線で、お互いに交わる場所なんてないのかもしれない。 それでも俺には俺なりに真っ直ぐと進み続けることしか出来ない。 なに、俺たちは兄妹で、時間なんてまだまだたくさんあるんだ。 交わることがなかったとしても、いつかそのすぐ隣を歩んでいくことぐらいはできるようになるだろうさ。 伝えたかった気持ちは、きっとそのとき伝わるだろう。 だからそう―今の俺たちは、すれ違うくらいでちょうどいい。 -END- -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1003.html
261 名前:【SS】影送り 1/2[sage] 投稿日:2011/08/06(土) 16 01 18.10 ID VNV1NBp70 [1/3] 「京介、起きて」 身体を揺さぶられる感覚に目を覚ませば、何時かのように桐乃が俺に馬乗りになっていた。 ビンタで起こされなかっただけマシだよな、と思いつつ、ふと違和感を覚えた。 違和感の対象は桐乃の表情。あの時のような不機嫌そうな顔ではあるが、一点だけ違っている。 「おまえ、泣いてるのか?」 少しだけ、目じりに水滴が見えたような― 「~~~~!」 俺の言葉に、桐乃は慌てたように腕で顔をぬぐう。 「平気か?」 身体を起こしながら桐乃に尋ねる。 「うっさい!とにかく早く起きて」 桐乃はそう言うと俺の上から降りた。 俺に見られたくないだろう顔を見られたっていうのに、桐乃はあまり怒っていないようだ。 一体どうしたっていうんだ。 俺は桐乃に言われた通りにベッドから起き上がる。 それと同時に、桐乃が部屋のカーテンを開けた。 今日は晴天だ。青い空が寝起きの目に眩しい。 「ちょっとこっち来て」 桐乃に促され、窓際に立つ。 温かな陽光に体が包まれる。それ自体は気持ちがいいんだが、桐乃の様子がおかしいので気分は良くならない。 「・・・・・・ちゃんと影はある」 影?影がどうかしのか? 「おい桐乃、何のことだか説明してくれ」 「黙ってて」 桐乃はピシリとそう言うと、俺の体を触り始めた。 頭、顔、首、肩、腕、胸、腰、足・・・ そして最後に俺の手を強く握った。 「触れる」 そう言うと、桐乃はふぅと一息ついた。 桐乃が俺の手を握って安心してくれるのは嬉しいんだけどよ、何を心配していたのかわからなきゃ俺のほうが安心できねえじゃねえ か。 「一人で納得してないで俺にも説明しろ」 俺の言葉に、桐乃は言い辛そうに目をそらす。 「・・・・・・言いたくねえなら、無理には聞かねえけどよ。 でもな、俺はおまえの兄貴なんだから、おまえの力になってやりてえんだよ」 俺の言葉に、桐乃はおずおずと視線を俺に返した。 「・・・・・・変な夢を見たの」 桐乃がポツリと話し始める。 「変な夢?」 「うん。あたしと兄貴が公園で遊んでるんだけど、空がピカッと光ったと思ったら、兄貴が影だけ残して消えちゃったの」 「俺が影だけ残して消えた?」 「それでね、あたしはワケが分かんなくてずっと残った影を見てたんだけど、ふと空を見たらその影が空に浮かんでいっちゃったの 」 「・・・・・・」 「怖くなって家に帰ったんだけど、家に帰ってもお父さんとお母さんどころか家も無くなってるし・・・・・・ 寂しくなって一人で泣いてたら目が覚めたの」 それで不安になって俺のところに来て、俺の体と影を確認したのか。 子供っぽいと言っちゃそうなんだけどよ、夢の事を気にして俺を確かめに来るなんて、意外と可愛いと思ってやらなくもないな。 262 名前:【SS】影送り 2/2[sage] 投稿日:2011/08/06(土) 16 01 51.49 ID VNV1NBp70 [2/3] それにしても、今の話どっかで― 『桐乃、いっしょに十まで数えるんだぞ』 晴天の空の下。他に誰もいない公園で。 そこで俺と桐乃は二人で手をつないで地面を見ていた。 『うん! いーち、にーい、さーん』 『しーい、ごーお、ろーく』 『しーち、はーち、きゅーう』 『『じゅう!』』 空を見上げると、空には仲良く手をつないだ二人の影が空に映し出されている。 『お兄ちゃん、すごーい!』 『桐乃、これは『影送り』って言ってな―』 そうか。今日は八月六日だから、そんな夢を見ちまったのか。 「ねえ京介。 京介は黙っていなくなったりしないよね」 桐乃は俯き、俺の手の感触を確かめるように、握ったままの手に少しだけ力を込めた。 「桐乃・・・・・・」 俺たちはずっと無視しあって来たけれど、俺たちはよく喧嘩するけれど、それでもこいつを不必要に思ったことは一度もない。 昔は煩わしく思ったこともあったけど、今はもう離れたいとは思わない。 そう、なにがあっても。 俺の手を握る桐乃の手。その手を握り返す。 「京介?」 「桐乃、俺は黙っていなくなったりしねえから。 もしどこかに行っちまっても、絶対におまえのところに帰ってくるから」 だから、おまえはそんな顔すんな」 もう一度、桐乃の手を握る手に力を込める。 「・・・・・・わかった。 あんたが帰ってくるって言うなら、あたしもずっと待ってるから」 桐乃も、握る手に力を込める。 あの戦争で、一体どれだけの恋人が、親子が、兄妹が、こんな約束を立てたんだろうか。 そして、一体どれだけの約束が果たされたんだろうか。 俺たちは、この約束を生涯守りきれるだろうか。 そんなことを考えながら、握る手に力を込めた。 「京介ー、桐乃ー、ご飯よー」 下からお袋が呼ぶ声が聞こえる。 「それじゃあ下に行くか」 「うん」 桐乃の手を握る手から力を抜く。 でも、握り合う手は放さない。 ご飯を食べたら、二人であの公園に行ってみよう。 そして、あの日のことを話しながら、あの日のように影送りをしてみよう。 空にはあの時のように、仲のいい兄妹が映るだろうか。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/873.html
114 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 21 46 06.89 ID Had/pIA70 [6/7] 69 俺脳内ではこうなった。 どうせいつもみたいに俺をからかってるんだろう。 たとえ真面目そうな顔をしていても、こんな事を言いはじめた桐乃をそのまま受け取るのは危険すぎる。 ・・・・・・けど、俺が引っかかってやったら、こいつ喜ぶんだよな。 俺は内心ため息をつくと先ほど少年が口にした言葉を脳内から引き出す。 口を開け、 「―――」 しかし言葉は出なかった。 セリフを忘れたわけじゃない。このシーンはもう十回以上もつき合わされ、完全に覚えてしまっている。 桐乃は変わらず真剣な表情で俺の目を見つめている。 ―いや、よく分からないが、少しだけ先ほどとは違う心が伺える気がする。 「おまえさ、俺をからかって楽しいの?」 気づいたら、俺はそう口にしていた。 「え?」 「桐乃は俺の事嫌いなんだろ?そんな俺に『好きだ』って言われて嬉しいのか?」 「それは―」 「俺だってさ、こういうの結構疲れるんだよ。 お前が喜んでくれるなら何度でも言ってやるけどさ、 ただ俺をからかうのが面白いってだけなら止めてくれねえか?」 「あ、あんたは―」 119 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 21 47 25.34 ID Had/pIA70 [7/7] 桐乃が俺を睨みつける。先ほどまでの機嫌の良さなど見る影もない。 だが、俺の意思とは関係なくあふれる何かが、俺に言葉を続けさせる。 「そういうのはさ、嫌なんだよ。 心が、疲れるんだよ」 桐乃の目が一瞬大きく開かれ、次に伏し目がちになる。 「―あんた、あたしが一番なんでしょ? なら良いじゃん。疲れるくらい。 あたしに、何度でも言ってよ」 「聞きたいのなら、何度でも言ってやる。 でもな、からかわないでくれ。嫌いなのに思わせぶりなことを言うのはやめてくれ。 『好きだ』ってからかうのは『好きじゃないから』だろ? 『好きじゃない』って伝えられると、心が痛むんだよ」 桐乃は顔を伏せ、一言だけ 「ばか」 と言った。 エンディングテーマはいつの間にか終わっていた。 妙な雰囲気のままスキップもせずに宣伝を眺める。 「京介ってさ、言わなくちゃ分からないヤツだと思ってたけど」 桐乃が俺の隣に座りなおす。 「たぶん言っても分からないんだよね」 「・・・わるいかよ」 「べっつにー。 それならあんたから言ってもらうだけだし」 「?」 言葉の意味が分からず隣を見ると、桐乃が俺に体を預けてきた。 少し戸惑いを覚えたが、気にせずに俺も桐乃に体を預ける。 テレビでは次回予告が始まっている。 先ほど恋人になったばかりの少年少女が言い合いをするカット。 泣く少女のカット。 そして、 『言葉にしなくても、ちゃんと分かってよ』 ―俺も少年も、これからまだまだ前途多難だ。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1270.html
922 名前:愛情弁当【SS】[sage] 投稿日:2011/11/14(月) 16 06 49.12 ID SuoRDL20O [2/6] 「明日はあたしのお弁当作って」 「へっ、何の話だ?」 桐乃が自分が載ってる雑誌を見せてくる。そこにある桐乃の近況欄を見てみると、 『最近お兄ちゃんが料理にハマッてて、今度お弁当を作ってくれることになりました。どんなお弁当になるか楽しみです♪』 「…と言うわけで、弁当作って」 「いやいや、と言うわけで、とかおかしいだろ」 「このままじゃあたしが雑誌にウソ書いたことになっちゃうじゃん。 あんたが弁当作ってくれれば解決するんだから。分かったら作る!」 「……へいへい」 どう見ても桐乃の無茶ぶりなのに、ついつい返事をしちまった。やれやれだぜ。 ※※※ 翌朝、早起きして俺は台所に向かう。 「何やってんの、京介?」 「お、お袋? ……いやあ、弁当を作ろうとしてな」 「それ、桐乃の弁当箱よね?」 「……ハハハハ、おかしいな、なんで桐乃の弁当箱持ってんだろ、俺は? ホントおかしいな、アハハ……」 「………」 「分かった、分かったよ。白状します。桐乃の弁当を作るつもりでした」 「へぇー。で、どんな弁当作るつもりなの?」 「それは、お袋がいつも作ってる感じで」 「なるほどね、でも京介は、母さんが桐乃にどんな弁当作ってるか知らないでしょ? 京介用とは大分違うんだから」 「そうだったのか……」 「だから桐乃用の弁当を教えてあげるわ。そうと決まれば支度ね♪」 やたら張り切りだすお袋の監督の元、俺は弁当を無事に作って桐乃に渡したのだった。 ※※※ 「桐乃、お弁当たべよ」 「うん、たべよたべよ」 「それにしても、桐乃のお弁当はいつも美味しそうだよね」 「ありがと。今日はいつもとちょっと違う感じで作ったみたいだけどね」 「へぇー、そんなことがあるんだ。面白そう。早く開けてみせて」 「うん。」 「……こ、これは……」 「うわあ、可愛いー」 あたしの目の前には、桜でんぶで大きくハートが描かれたお弁当が姿を見せていた。 「この刻み海苔で描かれてる似顔絵は桐乃……と、お兄さん?………」 「ハハハハ、全くお母さんったら、お茶目なんだから、ハハハハ……」 あいつ、なんて弁当を作ったワケ? 幸いあやせはお母さんが作ったものだって信じてるからいいけど、 これじゃまるで、まるで、愛妻弁当じゃん! キモっ!! キモっ!!! 「桐乃、なんだかニヤケてるよ。それによだれが」 「……ああ、あんまり美味しそうだったから。とりあえず食べようか」 「おっ、うまそーな弁当じゃん。桐乃ぉ、ちょっと食べさせてくんね?」 「加奈子、ダメ。これはあたしの弁当なんだから」 「いーじゃんか、加奈子の弁当も分けてやるからさぁ」 「ダメダメ」 「ちぇ、分かったよ。てか、なんでわざわざ弁当を撮ってんだョ桐乃?」 ※※※ …しかし、いつも桐乃があんなに可愛い弁当を食べてるとは知らなかったぜ。 俺の脳裏に、満面の笑みを浮かべながら弁当を食べる桐乃があらわれ、何故かドキッとしてしまった。 「たまには、あいつのために料理作るのもいいかもな」 何故かニヤケるのを抑えながら、俺は桐乃と同じスタイルの弁当を食べるのだった。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/991.html
804 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/30(土) 22 11 48.87 ID 5Xm3eCHL0 [2/2] 【SS】魅力的な彼女の魅力 「どう?似合う?」 試験勉強中の俺を邪魔するかのように突然現れた妹様は、しなを作りながらそう言った。 今日の桐乃は生地が薄めの白いブラウスに、桐乃にしては丈の長い、ひざぐらいの長さの藍色のスカートといった服装だ。 珍しいし初めて見る服装だから、おおかた次の撮影の前準備に買ってきた服なのだろう。 それはまぁ別にいい。 問題はその顔に眼鏡をかけていることだ。 眼鏡のタイプは薄い水色のアンダーリム。伊達眼鏡らしく、度は入っていないようだ。 いつもより清楚かつ大人しそうな服装と眼鏡により、雰囲気が普段とまったく違うものになっている。 これで黒髪なら土下座して求婚していたかも知れんが、相手は桐乃だからな。 「まぁ似合うんじゃないか」 無難な誉め方をしておく。 変な誉め方をして機嫌を損ねられてもたまらないしな。 「それだけ? もっと他に言う事ないの?」 桐乃は眼鏡のブリッジを中指で上げそのパーツを強調する。 「えっと・・・初めて見る服だな。 たまにはそういう格好もいいんじゃないか」 俺の言葉に桐乃はムッとした表情をすると、近づいて俺の顔を覗き込んできた。 「・・・・・・・・・」 そんなに近寄るんじゃねえ!顔を近づけるんじゃねえ!見惚れちまうじゃねえか! 耐え切れず、顔が赤くなる前に目線を横にそらす。 「何で顔をそらすの?」 「そういうおまえこそ、何で眼鏡かけてるんだよ」 質問に質問を返す形になったが、桐乃は気にせずに引いてくれた。 ふぅ。これで桐乃に視線を戻す事ができるな。 「今度眼鏡に合ったコーディネートの特集する事になったから、その下準備してるの。 この服もさっき買ってきたんだ」 仕事の前の下調べと準備は欠かさない。 相変わらずこいつのプロ意識はすごいな。 「まだあやせにも見せてないんだからね」 「じゃあ何で先に俺に見せるんだ?」 「あんた、この近所で知らない人がいないくらいの眼鏡フェチでしょ? あたしたちとは違う目線での助言が欲しかったの」 「いつの間にそこまで知られてんの!?」 お袋、桐乃だけでもヤバイってのに、ご近所にまで息子の趣味をひけらかすとか、何を考えてんだよ。 まさか、麻奈実の耳には入っていないよな? 「というワケで、何でもいいから意見を聞かせて。 それともまさか、眼鏡に一番合うのは裸だなんて言い出さないわよね?」 「言わねえよ!」 そもそも眼鏡は服装とマッチしてこそ意味があるのだ。 「知ってるって。 『眼鏡 かけたまま』なのも重要だけど『服 着たまま』なのも重要なんでしょ?」 「ごめんなさいもっと真面目に褒めますから許してください」 俺は土下座した。 何で桐乃が珍しく大人しめな格好をしてるのかと思えば、俺のお宝DVDの女優が着てた格好を意識してやがるのか! 絶対にこいつ、俺のお宝グッズをチェックしてるだろ! 「わかればよろしい。 まぁ、有用な意見が聞けたら眼鏡着用中のあたしの生写真貰ってきてあげるから」 桐乃はニヤニヤ笑いながら「嬉しいでしょ?」と聞いてくる。 仕方がない。 桐乃の写真が欲しいわけじゃないが、桐乃のためだし、桐乃の写真が欲しいわけじゃないが協力しよう。 断っておくが、眼鏡をかけた桐乃の写真が欲しいわけじゃないからな。 しかし、どんな事を言って褒めればいいんだ? 「似合ってるとか、センスがあるとかじゃダメなんだよな」 「当たり前じゃん。 似合ってるとか、センスがあるとか、綺麗だとか、可愛いとか聞き慣れてるし。 そもそもそんな当たり前な事言われなくったってわかってるって。 ・・・・・・もしかしてあんたがさっき顔をそらしたのって、あたしに見惚れそうになったから?」 『そんなわけないだろ』 そんな言葉がのど元まで出かかったが、なぜか発する事はできなかった。 自分でもよくわからないが、たぶんそんなことを言うと桐乃のモデルとしてのプライドを傷つけると思ったんだろうさ。 かと言って肯定の言葉を出すわけにはいかないため、結果として俺は顔を赤く染め、目を逸らすに留まった。 「ふ、ふ~ん。そうだったんだ」 からかうような桐乃の言葉を覚悟したが、実際にはそんな事はなくむしろ戸惑っているように見える。 それとも照れてるのか? あれ?こういう反応って慣れてるんじゃなかったの? (あたしに見惚れてくれるのは嬉しいんだケド、その理由が気に入らないわね。 そんなに眼鏡って良いの?これからはずっと眼鏡をかけるべきなのかな?) なんだかブツブツ言いはじめた。 なんか眼鏡とか聞こえたんだが・・・そうか。俺があんな反応をしたのは桐乃が眼鏡をかけていたからだな! そうに違いない! 「とにかく!綺麗とか可愛いとかって言ってくれるのは、ちょっとは嬉しいし、いっぱい言ってくれたほうがいいケド、 できればどこがどう良いのか聞きたいの」 まぁそうだろうな。漠然と褒められてもどこが良いいのかわからないし、困るだろうな。 「でもよ、今までそんなことしたことないし、どう褒めればいいのかなんてわからないんだが」 「そんなんだからあんたってモテないんだよね」 うるせえ。おまえ以外のヤツはそれなりに褒めてるっつーの。 「思ったことをそのまま言えばいいから。 あんたに豊かな語彙とか期待してないし、とりあえず目に付いた事、思いついたことを一つずつ言ってみて」 そう言われてもな。 妹を前にベタ褒めするのってかなり勇気がいるんだが。 「あんたが恥ずかしいのはわかるけど、面と向かって言われる私だって恥ずかしいの! でも仕事なんだし、少しでもいいものを作りたいなら仕方がないの。 ・・・・・・それともあたしって魅力ない?」 桐乃が節目がちにこちらを見る。 その姿はとても寂しげで、見ているだけで心が痛む。 はぁ、いつもは自信に満ち溢れているのに、何で時々こうして弱い自分を見せちまうんだろうな。 妹である桐乃にそんな姿を見せられたら、兄貴である俺は全力で答えなくちゃいけなくなるだろ? 「おまえは魅力的だからそんな顔するな」 桐乃に近づき頭を撫でてやる。 「誰かの容姿を褒めるなんてしたことないから戸惑っただけだ。 俺でよかったら力になるからさ」 「ん」 桐乃は頭上に手を上げ俺の手を払う、かと思いきや、優しく俺の手を包み込み、微笑んだ。 「それじゃあ、いーっぱい、褒めてね?」 「お、おう」 その様子に初めに思い浮かんだ言葉―『その笑顔が素敵だ』―は俺の口からは出す事ができなかった。 桐乃を褒める事になったものの、依然として何を言えばいいのかわからない。 とりあえずイスに座って、ベッドに腰掛ける桐乃を見る。 桐乃は何も言わずにじーっとこちらを見ている。 心なしか期待に目を輝かせているようにも見える。まぁ、俺の勘違いだろうけどな。 服装と眼鏡、そしてそれがどう似合っているのかを言えばいいんだろうが、どうにも言葉が浮かばん。 「仕方がないな。とりあえず格好の前に思いつくものから適当に褒めてみるわ。 そうすれば次第に慣れてくるだろ。 それでいいか?」 桐乃がビクリと揺れる。 こいつも緊張してるんだな。 「格好以外も褒めてくれるの?嬉しいけど・・・ あ、でもちょっと待って!」 桐乃はくるりと後ろを向き俺に背中を見せると、何かもぞもぞとし始めた。 メイクでも確認してるのか?そんなことしなくても十分なのにな。 「これでよし。それじゃあ、おねがいね」 何も変わったようには見えんが・・・・・・まぁいいだろう。 さて、どこを褒めてみるかだが・・・・・・そうだな、まずは無難に顔や髪にしとくか。 「桐乃、おまえの髪だが・・・・・・」 「う、うん」 「そのライトブラウンの髪、それがとてもおまえに合ってる。 確かに俺は黒髪ロングが好きだが、おまえの顔や表情は明るいから黒い髪よりもその明るさを引き出す髪色のほうが似合ってる。 その色はおまえが選んだんだろうが、すごくセンスがいいな。自分のイメージをよく把握してると思う。 そしてフワリと広がるロングヘアにその愛嬌のあるくせっ毛。おまえの顔は整いすぎて場合によっては近寄りがたい雰囲気を放っちまう が、 そのくせっ毛と髪の広がりがそれを和らげてる事に一役買っている。おまえは結構気にしてるみたいだけどな。その髪型を―」 ―略― 「―といったところか。次に顔だが、おまえは丸顔を気にしてるけどな、おまえの近寄りがたい優等生のイメージが―」 「―意志の強さを感じさせる、その強い瞳。色素が薄くて角度によってはグレーに見えるその色はどんな宝石よりも眩しく―」 「―つまり、大事なのはその目元を映えさせるための、つけまつげなんか必要としない、長すぎず短すぎない―」 「―誰をも虜にするような薄い桜色の唇は口紅がむしろ邪魔になるくらいに綺麗で、そこに触れることを考えるだけでだな―」 「―まさにパーフェクトな形の耳と、それを彩る派手すぎず地味すぎないハート型のイヤリング。俺はアクセサリのことはよく知らねえけ ど―」 ―略―略―略― 「―とまぁ、顔はこんな感じか」 机の上においておいたペットボトルでのどを潤す。 「・・・・・・うん」 喋る事に夢中で気がつかなかったが、桐乃の顔がすごい赤くなっている。 桐乃自身もぼーっとしていて、心ここにあらずといった感じだ。 「桐乃、平気か?」 「う、うん。平気・・・・・・ ちゃんと聞いてるから」 「そうか?体調が悪いなら続きは止めて今度にするぞ」 「まだ続きがあるの!?」 「当たり前だろ?まだ顔について少し話しただけだろうが」 何を言ってるんだ。俺のターンはまだ始まったばかりだぜ。 「・・・・・・聞く。このまま聞きたい」 「気分が悪くなったら言えよ? それじゃあ次は首からだな。 顔から首、肩にかけてのなだらかなラインもさることながら、いつもは長い髪に隠されていて見えないうなじ。 初めて俺に日本人女性のうなじについてときめかせたそここそが、桐乃の首を語る上で一番重要だ。 いつも隠されているからこそ、髪をかきあげた時、髪を結い上げたときにしか露にされない、逆に言えばその瞬間―」 ―略―略―略―略―略― 「―首から繋がる肩、水着や薄着のときにしか露出しないが、そのラインこそが体全体の調子を整えて―」 「―そのブラウス、上から二つのボタンを空けてるおかげで、桐乃の美しい鎖骨が見えてるのがいい。女の美しさの基本は鎖骨が―」 「―そもそもそのブラウス薄すぎねえか?そのせいで桐乃のピンク色の下着が薄らと透けて見えちまうんだが。だがその薄さが―」 「―だが、確かにそのブラウスと桐乃の相性はいいな。いつもとは違って控えめにあしらわれてるそのフリルが桐乃のカワイさを―」 「―ブラウス越しのゆったりとした、だがしっかりと存在感のある胸の膨らみ。つい触りたくなっちまうような、柔らかさを感じさせる― 」 「―そのくせウエストはきゅっと引き締まった54cmで、抱きしめたときにはたぶんその細さに驚いて―」 「―背中から腰にいたるその曲線が―」―略―「―ずっと抱きしめたくなる―」―略―「―いいケツだ―」―略―「―身体をひねたときに できる服のしわが―」 「―陸上で鍛えた引き締まった、だが女性的な丸みのあるふともも―」―略―「―いつものミニスカやホットパンツにはない、その膝丈の スカートから―」 「―瑞々しい、水滴が珠となる肌―」―略―「―野外で活動する事も多いのに日焼けもシミもまるでない―」―略―「―水密桃なんて表現 じゃその柔らかさと甘さを表現しきれない―」 ―略―略―略―略―略―略―略― 「―とまぁ、体はこんな感じか」 机の上においておいたペットボトルでのどを潤す。 よし。自分でもなんて言ったのかよく覚えていないが、今度はちゃんと服装と、服装と桐乃の相性を褒める事ができたぞ。 桐乃もだいぶ満足したか? 「・・・・・・・・・・・・」 喋る事に夢中で気がつかなかったが、桐乃の顔がさらに赤くなっている。耳どころか首まで真っ赤だ。 目も潤んでいて、右手で自分の身体を抱きしめて、左手はふとももの間に挟むようにしてモジモジしてる。 な、なんだ?泣く位怒らせちまったのか? でもそれにしてはなんだか色っぽいぞ? 「桐乃?」 「・・・・・・・・・・・・」 声をかけるが、ボーっとして反応しない。 身体も熱っぽそうだし、まさか熱中症か? ペットボトルを手に立ち上がり、桐乃の前に立つ。 桐乃のおでこに手を当ててみると、かなり熱い。 「おい桐乃、とりあえずこれを飲め」 「ん・・・・・・」 桐乃はボウッとした様子のまま俺からペットボトルを受け取ると、口をつけて飲み始めた。 「・・・・・・兄貴の味がする」 お茶を飲み干し、桐乃がポツリと呟く。 ふぅ、どうやら意識がはっきりしてきたみたいだな。顔の赤みも少しだけ薄くなったみたいだ。 「あ・・・・・・間接キス・・・・・・」 ん?また少し赤くなったような。 「桐乃、平気か?」 「うん。ありがとう。だいぶ落ち着いた。 ・・・・・・飲み干しちゃったから、後であたしのお茶あげるね」 桐乃の異変に気が付かなかった俺にも責任があるんだし、そんなに気を使わなくてもいいんだが。 それにどうせ冷蔵庫の麦茶を移したものだしな。 「様子が変だったが、ちゃんと聞こえてたか? もう一度言いなおしてもいいぜ」 「ちゃ、ちゃんと聞こえてたから! 京介があたしをちゃんと見てたことも、どういう想いでどこを見てたのかもちゃんと伝わったし・・・・・・」 そうか。それならいいんだ。 さすがに今までの言葉を全部言いなおすのは大変だし、そもそもなんて言ったか覚えていないからな。 「さすがにもう終わりだよね?」 「何言ってるんだ? まだまだ伝えてない事がいっぱいあるんだが」 「まだ続きがあるの!? もう顔も、身体も、服もすっごい褒めてくれたじゃん!」 当たり前だろ?そんな十分二十分で桐乃の良い所を褒めきれるはずがないだろうが。 「ただの見た目以外にも色々あるだろ? 匂いだとか、雰囲気だとか、何かをするときの動きだとか、仕草だとか・・・・・・ モデルはただ立ってればいいもんじゃないんだろ? なら、服装と動きの調和なんかも重要になるんじゃないか? それに、今のだってただ桐乃の特徴を表面的になぞっただけじゃねえか」 ようやく口も滑らかになってきたんだ。その気になれば今の十倍は軽いぜ。 桐乃は赤みの残る顔を若干引きつらせ、 「も、もう今日のところは勘弁して・・・・・・ これ以上聞いてたらダメになりそう・・・・・・」 ダメになる?落ち込んじまうって事か? 確かに何度か駄目だしはしたが、大体は俺の趣味的なところだったり、改善が簡単なところだったりだから平気だと思ったんだが・・・・・・ まあ、桐乃が嫌がるのなら仕方がない。体調もだいぶ悪いみたいだしな。 「そうか、なら今日のところはこれでお終いだな。 ・・・・・・体調悪いなら俺の部屋で休んでいくか?」 「きょ、京介の部屋で休憩!? だ、ダメ!それはダメ! 今京介と同じ部屋で寝ちゃうなんて、あたしが耐えられないから!」 「・・・・・・そう、か」 一緒の部屋にいるのが耐えられない、か。 どうやら妹様は大分機嫌が悪いらしい。 褒め方を間違えたのか、あるいは触れちゃいけないことに知らずに触れていたのか。 「あたしは今から部屋に帰って、京介が言ってくれたことを聞きなおしてくるから」 桐乃は手元をごそごそと何か動かすと、立ち上がりドアへと向かうが、その足取りはふらふらと覚束ない。 「桐乃、部屋まで連れて行ってやろうか?」 「い、いい!」 「・・・・・・そう、か」 また拒絶されちまった。 そりゃ嫌いなやつに変な風に褒められたら嫌だろう。 もっと桐乃の反応を確かめながら言葉を選んでいくべきだったんだろうか。 「あ・・・・・・」 落ち込む俺の顔を見て、桐乃の顔色が変わる。 「えっとね、あんたに触られるのが嫌ってワケじゃないから」 「そうなのか?」 「うん。でも、今触られたり、優しくされたりするとあんたにすっごい甘えちゃいそうで・・・・・・ 気持ちが落ち着いてないのに、そういうことしたくないから」 「?」 よく意味がわからない。 怒っているんじゃないのか? 「・・・・・・ねぇ、さっき褒めてくれたのって、お世辞じゃなくて、本心から、素直に言ってくれたんだよね?」 「ああ。俺はお世辞なんて器用なことできないからな」 「うん。知ってる。 ・・・・・・あんたが素直な気持ちで言ってくれたから、勘違いしてるみたいだし、あたしも素直に言うけどさ。 あんたが褒めてくれたの、すっごい嬉しかったから」 「え?」 桐乃が俺に褒められて嬉しかった? 「あんた、あたしのファッションとかあたしの姿にまったく興味ないみたいだったからさ、 ちゃんと見てくれてるのがわかってすっごい嬉しかった。 京介に綺麗だって思われてるって知って、すっごい幸せだった」 桐乃はほんのりと頬を染め、リラックスした様子でフワリと笑う。 「あたしを見てくれて、あたしを褒めてくれて、ありがとうね」 そうか。俺自身なんていったか覚えてないが、ちゃんと伝わってたんだな。 「そうか。それならいいんだ」 「ん。そういうことだから。 ・・・・・・あんたの意見結構参考になったからさ、あたしの写真だけじゃなくて、 もっとすごいのもプレゼントしてあげるね」 「それは嬉しいな。 楽しみにしてるぜ」 「受け取り拒否は認めないから。 覚悟しててね?」 桐乃は頬を染めたままにんまりと笑うと、扉を開けて外へ出て行った。 受け取り拒否のプレゼントか。なんだろうな。 「まぁ、どうせエロゲかなんかだろうさ」 あるいはアニメか。それ以外の選択肢は思いつかん。 時計を見ると、桐乃が来てから二時間近く経っていた。 ほとんど俺が思いつくままに喋っていただけで、ほとんど時間は経っていないと思っていたんだが。 自分でもなんて言ったのかほとんど覚えていないが、たしかにこれだけの時間褒められれば桐乃も悪い気はしなかったのだろう。 まぁ、桐乃は褒められなれてるだろうし、俺の褒め言葉なんか聞き慣れているぐらいでしかないだろうがな。 「・・・・・・まずいことは言っていなかったよな?」 自分の言ったセリフを思い出してみる。 ・・・・・・天使だとか、女神だとか、嫁にしたいだとか、そういう妹に聞かれてはまずい言葉は言っていなかったはずだ。 なら問題ないよな。 ん?だがしかし、 「あ。しまった」 二つ気がついた。 まず一つ。 確かに言ってはまずいことは言った覚えがない。 言った覚えはないが、言わなくちゃいけなかったことを言わなかった覚えならある。 「これじゃあ桐乃に後でもう一度褒めろって言われちまうな」 なぜなら 「眼鏡を褒めるのを忘れてた」 元々は桐乃に眼鏡のことを褒めろと言われていたのに、結局そのことについては触れず、桐乃自身のことばかり褒めてしまった。 しかたがない。 後で眼鏡について触れておこう。 ついでにその際に褒めそこなった場所についても言及しておこう。 桐乃は褒められるのが好きみたいだしな。 そしてもうひとつ。 「まぁ、こっちは言わなくて正解か。なんたって」 ふと、さっき見た桐乃の笑顔を思い出す。 『あたしを見てくれて、あたしを褒めてくれて、ありがとうね』 そう言って幸せそうに微笑んだ桐乃の笑顔は― 「『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』からな」 -END- オリジナルサイズ
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1688.html
409 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/04/20(土) 00 10 50.02 ID RexyWUKoO (※編集者注:トキ・兄妹つがいの卵が孵化したニュースより) 桐乃「ねえ、このひなちゃん達をうちで引き取れないかな?」 京介「何をいきなり言いだすんだ。だいたいトキって天然記念物だろ」 桐乃「可哀想じゃん。ひなちゃんには何の罪もないのに親と引き離されてさ、一生檻の中なんだよ。あんまりじゃん」 京介「まあ、確かにそうだよな」 桐乃「遺伝子が何だっつーの! 今後どうなるかはやってみなきゃ分からないし」 京介「やるって、何をだよ」 桐乃「試して……みる?」 京介「お、おい。桐乃さん?」 ※※※ 京介「なんだ、夢か」 桐乃「なになに、何かエロい夢でも見てたんじゃないの?」 京介「まあ、確かにエロいことになりかけたけどな」 桐乃「まったくスケベオヤジは朝からこれだから。ほらほら、涼介と優乃と遊園地に行く約束でしょ」 京介「へーい」 優乃「パパおはよー。お兄ちゃんはとっくにお外でまってるよ」 京介「よし待ってろ、超特急で準備するからな」 優乃「うん、わかったー」 バタバタバタ 京介「トキの兄妹カップルが、俺達に勇気をくれたんだよな」 桐乃「うん、おかげで素敵な宝物を授かった」 京介「あのトキの分まで、俺達はこれからずっとずっと親子仲良くいかないとな」 桐乃「そうと決まれば朝のじゅーでんターイム」 涼介「それは後でいいから、早くでかけようよ」 桐乃「ごめんごめん。じゅーでんは後のお楽しみにまわすことにする」 京介「やれやれ。じゃ、まあ改めて」 4人「行ってきまーす」 ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/871.html
38 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 17 30 37.07 ID Had/pIA70 [5/7] 京介は桐乃の嗜好を受け入れたんだから、桐乃も京介の嗜好を受け入れるべき。 桐乃「というわけで、あんたの性癖も認めてあげるから。 だからあんたの好きな眼鏡のタイプ教えて」 京介「・・・教えたらどうするんだよ」 桐乃「二人きりのときなら、眼鏡をかけてあげる」 京介「・・・教えねえ。それに、誰の前でもかけさせねえ」 桐乃「はぁ?せっかくあたしが眼鏡をかけてあげるって言ってんのに。 あんたの好みに合わせるなんて、もう二度とないかもよ?」 京介「・・・べつに好みじゃねえし」 桐乃「何言ってんの?あんたの好みなんてリサーチ済みなんだから。 いまさら言い逃れなんてできないし」 京介「リサーチ済み?」 桐乃「お、お母さんが調べたの! それで、どうしてなの?理由ぐらい教えなさいよ」 京介(桐乃が俺のために眼鏡かけてくれるって、それ性的な対象として見ろってことだろ? それがイヤなんて口が裂けても言えねえ。 他のヤツにもそう見られたくないなんて、あやせに刺されても言えねえ) 京介「・・・・・・おまえに似合わないからだよ」 プイッ 桐乃「ふ~ん。まぁいい。納得してあげる。 あたしも眼鏡かけるの嫌いだし。 じゃあ、何で眼鏡が好きなのかくらい聞かせてよ」 桐乃(やっぱり地味子がかけてるから?) 京介「・・・・・・よく覚えてねえんだけどよ、 ずっとむかし眼鏡をかけたすっごい可愛い子と会ってさ、 そのときは似合ってないって言っちまったんだけど、妙に眼鏡が頭に残ってな。 気がついたらこうなってた」 桐乃「・・・・・・あ」 京介「どうかしたのか?」 桐乃「~~~!! なんでもない!あんたはもう出てけ!」 京介「何なんだ一体・・・」 バタン ・・・・・・ 『ねぇお兄ちゃん。にあってる?』 『~~~!! 桐乃にはにあわねえ!二度とかけんな!』 『ふんだ!メガネなんてだいきらい!』 ・・・・・・ 桐乃「・・・・・・バカ」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1063.html
913 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/30(火) 17 32 34.75 ID uGicJfDjP [9/14] 携帯とか目覚ましで京介ボイス入ってそうだな 914 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/30(火) 17 39 02.00 ID 6PVtr/zG0 [7/12] 京介が直接起こしに行けばいいのに 915 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/30(火) 17 47 21.62 ID WeqkIe1B0 [1/2] きりりんが先に起きないと、京介に目覚ましのキスができないじゃない! …あ、京介にキスで起こして貰えばいいのか 916 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/30(火) 17 59 40.17 ID XsWK3V3y0 [4/9] 915 ガチャ 桐乃(そーっと、そーっと) 京介「すーすー」 桐乃「起きろ、京介」ボソ 京介「すーすー」 桐乃「お、起きなきゃキスするからね?」ボソ 京介「すーすー」 桐乃「起きないあんたが悪いんだからね?」ボソ 京介「すーすー」 桐乃「ホントのホントだからね?」ボソ 京介「すーすー」 桐乃「・・・・・・」ドキドキ 京介「・・・・・・」ドキドキ 桐乃「・・・・・・ あんた、起きてるでしょ」ムギュ 京介「いてぇ! 何でわかりやがった!」 桐乃「少しあたしの声を聞いたからって目が覚めるなんて、あんた本当にシスコンよね」 京介「むぐ・・・・・・」 桐乃(今度からはもっと小さな声で起こさないと・・・・・・) 京介(まさか、桐乃の匂いがしたから目が覚めたなんて言えねえよな) -------------